(やや緊張気味に)み、みなさん、はじめまして。『真かまいたちの夜—11人目の訪問者(サスペクト)—』のミステリー編を担当いたしました黒田研二でございます。

 

 まさか、この僕が「かまいたちの夜」シリーズ最新作の制作に関わることになるなんて、しかもメインシナリオであるミステリー編を書かせていただけるとは……前作を夢中でプレイしていた頃は、もちろん想像さえしていませんでした。

 

 というわけで、えっと、まだ緊張が抜け切っておりませんが、今日はミステリー編を執筆した経過などをお話ししたいと思います。

 

 さかのぼること昨年の3月。『極限脱出 9時間9人9の扉』のノベライズ本の宣伝活動で上京したときの出来事であります。「極限脱出」のディレクター打越鋼太郎さんに、「お話ししたいことがあるので、このあと我が社まで来ていただけませんか?」と誘われたのが、そもそもの始まりでした。

 

 一体、なんの話だろう? もしかして説教? ゲーム版のストーリーを大幅に変え、単なる僕の好みで熟女のオバチャンを大活躍させちゃったことがヤバかったんじゃないかしら? とドキドキしながら、チュンソフトの会議室へ。「『かまいたちの夜』の新作シナリオを書いていただきたいんですが」といわれ、思わず「へ?」と間抜けな言葉を返してしまったことも、今では懐かしい思い出です。

 

「か、か、か、かまいたちの新作が出るんですか? うわーい。僕、大好きなんです。みどりちゃんがお尻をくねっくねっと動かすところなんて、今でも夢に見るくらいですよ。あのお尻、よかったなあ。いまだ、僕の人生の中では、あれがベストオブお尻ですね。今度の新作にも、ピンクのおしりはあるんですか?」

 

「落ち着いてください、黒田さん」

 

「いやあ、楽しみだなあ、楽しみだなあ。で、シナリオは誰が書かれるんですか? やっぱり、我孫子さん? あ、もしかして打越さんだったりして」

 

「だから、あなたです」

 

「……へ?」

 

 不毛な会話の末、ようやくすべてを理解した僕。目玉がこぼれ落ちんばかりに驚きましたが、これは願ってもないチャンス。「そのお仕事、ぜひともやらしてください!」と、その場にひれ伏しました。

 

「お望みとあらば、ディープキスでもなんでもしますから」

 

「いりません」

 

 さて。かまいたちの新作が出るという情報にただただ興奮し、ふたつ返事でOKしてしまった僕ですが、「大仕事が舞い込んできたぞ、いやっほーい♪」と浮かれ踊ったのは最初の数日間だけ。次第に、ことの重大さがわかってきて、こりゃあとんでもないものを引き受けちまったぞと、感激の涙が冷や汗に変わったのは当然のこと。しかし、プレッシャーに負けるわけにはいきません。その後は何度も上京し、監修の我孫子武丸さん、プロデューサー、ディレクターのかたたちとひたすら打ち合わせを繰り返してまいりました。

 

「かまいたちらしさって、なんだと思いますか?」

 

 打ち合わせはそのひとことからスタート。「かまいたちの夜」がなぜ大ヒットしたか、かまいたちファンはなにを求めているかを分析し、その上で大まかなプロットを作っていくことに。

 

 ここからが苦難の連続でした。ない知恵をしぼりにしぼって、ようやくプロットを完成させましたが、そう簡単にOKが出るはずもありません。ふたつの回廊が1本の廊下で繋がったメガネ型の洋館、嵐により陸の孤島と化した水族館、防犯システムの暴走で脱出不可能となった近未来研究所など、様々な舞台を思いついたものの、どれもイマイチの出来。あれやこれやと話し合ううちに、「やはり1作目の雰囲気に近いものがいいのでは?」という結論に落ち着き、4本目のプロットから雪山のペンションを舞台に物語を作り始めましたが、それでもうまくいきません。今になって考えてみれば、「かまいたちの夜」というタイトルを必要以上に意識してしまったことが大きな枷となっていたんでしょうね。「まったくの新作だと思って考えてみてください」といわれて、ようやく自由な発想ができるようになりました。その結果、6本目のプロットでOKが出た次第であります。

 

 執筆にとりかかったのは昨年の8月。普段の僕は、ある程度プロットが決まったところで、あとは筆任せ、出たとこ勝負で書き出してしまうことが多く、「さて、この続きはどうしよう?」と途中何度も立ち止まってしまったりするのですが、かまいたちに関しては何度も打ち合わせを重ね、プロットをがっちり固めてから執筆に取りかかったので、自分でも驚くくらいスムーズに筆を運ぶことができました。頭の中で、ゲームになったときのことを想像すると、自然とモチベーションも上がっていくんですよね。これが、かまいたちの魔力なのか? と本気で思ったくらいです。困ったことに、書きたいことが次から次へとあふれ出してきて、書いても書いても終わらない。予定枚数をはるかに超え、書いては刈り込み、また書いては刈り込みを繰り返したため、結局、原稿の完成は〆切ギリギリまでもつれ込むこととなりました。最後は友人の結婚披露宴にまでパソコンを持ち込み、控え室でしこしこ。晴れやかな場だというのに、難しい顔で凄惨な連続殺人シーンを書いていたんですから、非常識もはなはだしいというか……周りはいい迷惑だったでしょうね。Kさん夫妻、ごめんなさい。

 

 そんなこんなで、11月にシナリオが完成。1作目の舞台や雰囲気を踏襲しながら、しかし1作目とはまったく違う物語に仕上がったな、というのが原稿を読み返したときの第一印象でした。外見はそっくりだけれども、中身は全然違う——たとえるなら、『タッチ』の達也と和也、『ひぐらしのなく頃に』の魅音と詩音、おすぎとピーコ、きんさん・ぎんさんの関係。わかりにくいですか? すみません。とにかく、「かまいたちの夜」とは似て非なる新しい「かまいたちの夜」になったのではないかと自負しております。案外、1作目をやり込んだ人ほど、作者の仕掛けたトリックに騙されるのではないかなと思っているのですが、さて実際のところはどうでしょう?

 

 本格ミステリとサウンドノベルは、とても相性がよいのではないかと、今回、ミステリー編を書かせていただき痛感しました。小説の場合、読み終えた直後に、また最初から読み直そうと思う人はほとんどいないと思います。そのため、作者が埋め込んだ伏線に気づいてもらえないこともあったり。でもゲームだと、そのシステム上、二度、三度と冒頭に立ち返ることが多く、真相がわかったあとで、もう一度最初から読んでもらえるチャンスもあるわけで。真相を知ったあとで、「あ。こんなところにも手がかりがあったんだ」と、ウォーリーを捜すみたいに見つけていただけると、作者冥利に尽きるというものです。それくらい、何気ない描写に細かい伏線をいっぱい詰め込んでおります。そのあたりも楽しんでいただければ幸いです。

 

 『真かまいたちの夜—11人目の訪問者(サスペクト)—』発売決定の報を聞き、「え? かまいたちの新作が出るの? いやっほー!」と僕みたいにはしゃぎまわったかたも多いかと思います。皆さんの期待を裏切らない作品が出来上がったと思っているのですが……発売後の反応が楽しみでもあり、恐ろしくもあり。ああ。その日のことを考えたら、また緊張してきました。ちょ、ちょっとトイレへ行ってきます。あわわわわ(青ざめながら退場)。

黒田研二氏のプロフィールはこちら