吹きすさぶ砂嵐の中、重い砂に足を取られながらも先を急ぐ人影があった。
一つは青年。三度笠に道中合羽(格子のマント)。風来人の「シレン」。
もう一つは小さく、一匹のイタチ、しかも今や珍しい語りイタチの「コッパ」。
強烈な砂嵐は視界をふさぐだけでなく、まともに歩くことすらままならなかったが、一人と一匹は低姿勢をとりながら一歩一歩進んでいる。
コッパ「うう、やっぱり回り道したほうが良かったのかなぁ‥‥。はやいとこ、ぬけないと‥‥ウワッ!」
叫びと同時にものすごい強風が駆け抜ける。ふたりはあやうく吹き飛ばされそうになりながら、なんとかそれに耐えた。
コッパ「げほっ、ぺっ! ひでえ砂嵐‥‥」
遠慮なく口の中に侵入してくる砂を吐き出し、コッパが悪態をつく。だが言葉ほどには元気がなかった。
身体じゅう砂まみれで重く、まして視界の効かぬ現状では、どこまで歩いたのか、どこまで歩けばよいのかすらわからないのだ。
そしてとうとう、シレンがその場に膝をついてしまう。
コッパ「おい‥‥。シレン‥‥‥しっかりしろよ!シレン!」
しかし砂嵐はなおひどく、もう辺りすらなにも見えない状態だ。
コッパ「おい‥‥しっか‥‥り‥‥‥」
次第にコッパも力尽きてゆく。
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