ファミ通PS2 1/9,23 合併号 コラム


ファミ通PS2 この記事は、「ファミ通PS2 1月9・23日合併号」より、
転載させていただきました

『金八先生』を目指そう

── まず最初に、学校を舞台にした作品を作ろうと思った理由をお聞かせ下さい。

イシイ まず最初に何か新しいもの、いままでになかったものを作りたいという思いがありました。そこで、学校の先生を主人公にした作品はどうかと考えたんです。学校の教師という職業は複雑でおもしろ味のある職業ですよね。生徒たちの抱える問題を解決しなければいけないし、それには彼らをうまく導いてあげなければいけない。おそらく実際の教師の方々が感じていらっしゃるような、こういう醍醐味や難しさというのは、ゲームでもうまく表現できるんじゃないか、と思ったんです。

── その作品がテレビドラマの『3年B組金八先生(以下『金八先生』)』と結びついていった経緯は?

イシイ じつは企画を立ち上げた当初からテレビドラマの『金八先生』のような作品を目指していたんです。『金八先生』には、たとえば意地悪な教頭先生がいたり、信条の異なる教師や生徒の親たちとの対立があったりと、いわば学校ドラマの文法がしっかりとあって、それはゲームを作るうえで参考になるだろうと思ったんです。それと、どうしてもゲーム中に金八先生的な存在を登場させたいと思いまして。

── というのは?

イシイ ゲームの主人公は教師ですが、プレイヤーは教師という職業に就いた経験のない人がほとんどですよね。そこで、ゲームの中でプレイヤーを導く師匠的な存在が必要になってきた。その師匠を金八先生のような先輩教師にしたらどうかというアイディアが浮かんだんですよ。で、その師匠が病気になって、その代理として主人公の新米教師が学校に赴任してくるという設定になりました。

── と言うことはその段階では、その師匠はまだ金八先生じゃなかったんですね。

イシイ ええ。制作を進めていくうちに、この作品に金八先生を登場させられないかという話が持ち上がって、TBSさんにお話を聞いて頂いたんですよ。

── 反応はいかがでした?

イシイ TBSさんとお話させて頂いた時点で、シナリオが完成していたんです。僕たちはそのシナリオに自信を持っていたので変更したくはなかった。だから、物語はあくまでオリジナルですが、世界観は『金八先生』のものをお借りして金八先生にご登場頂く。そういう前提でお話を進めていったのですが、シナリオをお渡ししたところ非常に良い印象を持って頂いて、何回かの話し合いのあと正式にオーケーが出たんですよ。

── それで、この『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』が生まれたというわけですね。

もっと自由度を高く

── この作品の制作にあたって、サウンドノベルではなくロールプレイドラマという新ジャンルを立ち上げた理由についてお聞かせ下さい。

イシイ サウンドノベルの長所というのは、僕は間口の広さだと思っているんですよ。誰もが手軽に楽しめて、しかもくり返し遊べるという奥の深さを持っている。ただ、たとえばサウンドノベルには、時間軸をプレイヤーがコントロールできないというような制限があって、そこに限界を感じてはいたんですね。

── "時間軸のコントロール"というのは?

イシイ プレイヤーがいつ、どこでどんな行動を取るかを任意に決められる、ということですね。サウンドノベルの間口の広さ、親しみやすさという長所はそのままに、もっと自由度が高く、プレイヤーの意図をゲームに反映したかったというのが、ロールプレイドラマという新ジャンルを作った理由ですね。

── 第1話、第2話……、というふうにテレビドラマのようにゲームが進むということですが、ではその1話ごとに行動できる日数とターンがあって、その時間の制限の中でプレイヤーはどのような行動を取るかを決める、ということなのですか?

イシイ はい。その時間のなかで、生徒の問題を解決できなければバッドエンドになります。生徒が抱える問題を解決してあげれば、物語が進んでつぎのお話が始まる、と言う感じで進んでいきます。

── では、具体的にどのようにして生徒の問題を解決していくのですか?

イシイ まず、カードを使って登場人物たちと会話していきます。これがカードスロットシステムなのですが、どのカードをどの人物に使うかで、反応が違います。選んだカードによって情報が得られたり、新たなカードが手に入ったり……という感じですね。

── そうすると、カードを手に入れると新たな選択肢が選べるようになる、または行動の幅が広がるという捉え方でいいのですか?

イシイ 基本的にはそれで大丈夫です。ただし、獲得することで生徒たちの才能を開花させる性質を持つカードもあるので、新たなカードを手に入れれば選択肢が増える、とは一慨に言い切れないのですが。

── 生徒の才能を開花させるカードというのは?

イシイ 一度問題を解決してあげた生徒たちというのは、それ以外のシナリオではサブキャラクターになってしまうことが多いんですよ。ただ、問題を解決したからと言って、それ以降その生徒が放ったらかしになっちゃうのは嫌だった。そこで、カードを集めることによって、生徒の才能が開花していく要素を入れたんです。あるお話の中で、生徒の問題を解決するために必要となる行動を取っていくわけですが、それと同時に、以前登場した生徒の才能を開花させるカードを集めることもできるわけです。

── もちろん、才能を開花させるカードを集めるのにも、ターンを消費するんですよね。

イシイ そうですね。だから才能を開花させるカードを捜すことばかりに気を取られていると、問題を抱えた生徒にうまく対処できなくなることもあります。

物語の楽しさとゲーム的な醍醐味

── では、つぎはザッピングについてお願いします。

イシイ ザッピングは、一度ゲームをクリアーしてから重要になってくる要素です。というのも、主人公のクラスには20人の問題を抱えた生徒たちがいるのですが、卒業式までの1周目のプレイでは、全員の問題を解決することは不可能なんですよ。2周目以降のプレイで1回目のプレイでは体験できなかったエピソードが追加されるので、それをクリアーしなきゃいけない。

── それは単にお話の数が増えるというわけではないんですよね?

イシイ それだとつまらないですよね。違うんです。1周目のプレイでもあったエピソードはもちろん同じですが、そのエピソードと同じ時間帯に起こっていた別の事件についてのシナリオが新たに追加されるということなんです。

── その場合、視点は複数になるのですか?

イシイ 視点が複数になるわけじゃないんです。視点は主人公、松本満天の視点のままです。

── ??

イシイ つまり、1話のなか別々の生徒のエピソードが複数あるということですね。どちらも解決するには無駄な行動を取らずにきちんと計画を立てて、効率的に行動する必要があるわけで。

── ああ、なるほど。そうなると制限ターン内にこなすべきことが多くなるから当然難度は上がると。

イシイ そうなりますね。最大で3人の生徒のエピソードを同時に解決する、なんていうのがあって、これはかなり難しいですよ。しかも、そのあいだに生徒の才能を開花させるカードも集めようとすると……。

── 相当深いですね(笑)。難度は高いけど、それはゲーム的でやりがいのあるシステムですね。

イシイ そうですね。個人的には、1周目のプレイでは何度も書き直して、苦労して書き上げた物語を十分に味わって欲しいと思っています。で、2周目以降のプレイではそういう、いわゆるゲーム的な醍醐味も楽しんでもらえたら嬉しいですね。


── 完成を心待ちにしていますので、頑張って下さい。本日はありがとうございました。



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