贈る言葉主人公 ( 3年B組担任 )投稿者 : Sleipnir

国語担当にあるまじきことながら、今日この日に告げるべき言葉が出てこない。
「卒業おめでとう」という言葉ではあまりに短すぎて、ありきたりな定型文すら喉の奥に引っかかってしまう。なんとも情けない。今日君たちの顔を見たとたんに泣いてしまったらどうしようと、朝、顔を洗いながら本気で心配になってしまったよ。
そういえば初めて君たちと出逢ったあの日も、今日と同じように桜が舞っていた。少しばかり散り遅れた未熟な葉桜が目に痛かったことを覚えている。緊張していた。正直に云えば怖かった。再び教壇に立つことも、君たちに逢うことも。
もっともそれはすぐに、怒涛のような毎日と変わって行ったけれど。

一年間、本当にどうもありがとう。
“おめでとう”よりまず先に、ぼくは君たちにそう云いたい。
そして、行ってらっしゃい。
この先たとえ未来を見失うようなことがあったとしても、“明日”は必ず君たちの指先にある。迷っても失敗しても立ち止まっても、明日は必ずそこにある。失敗と後悔ばかりを重ねてきたぼくが云うと、少しは説得力があると思わないかい?

大丈夫。
平気だよ。
痛かったら目を閉じてごらん。辛かったら逃げてもいいから、いつか必ず戻っておいで。
ほんと、世の中はけっこう、捨てたものじゃないんだから。

── ぼくの生徒であると同時に、小さな“先生”たちへ。